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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)3556号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

Xは昭和三五年二月一日ころY2診療所において担当医師Y1の執刀により子宮外妊娠に対する治療のために開腹手術を受けた際、Y1は虫垂の切除手術をも行なつた(判旨中、右各手術を総称して「本件手術」という)のであるが、その後Xは虫垂切除手術部位(右下腹部)の慢性的激痛その他身体の不調に悩み続けたため、Y2のほか多数の医療機関で診療を受けたけれども完治するに至らなかつたところ、昭和四七年一月三一日用便中に大便とともに排泄した約2.5センチメートル角四枚重ねのガーゼ一片(判旨中、「本体ガーゼ」という)を偶然発見した。そこでXは右下腹部の激痛等はY1の過失によつて遺留されたうえに放置された本件ガーゼに起因するものであると主張してY1に対し民法七〇九条の、Y2に対し同法七一五条の不法行為責任に基づき二〇〇〇万円の損害賠償を求めた。

【判旨】

二そこで、被告らの責任の有無について判断する。

1 原告は、被告竹中には本件手術の際虫垂切除手術に用いたガーゼを原告の体内に遺留した過失がある旨主張し、原告本人は、昭和四七年一月三一日の夜用便中、大便とともに排泄した本件ガーゼを偶然発見した旨供述し、<証拠>には、同日夜トイレに行つた時ガーゼが出た旨の記載がある。また<証拠>によると、原告は、昭和四七年三月一八日大阪市西成区玉出中二丁目一番二五号山口内科医院において、医師の問診に対し、一年三ケ月前(もつとも、一年三ケ月前は昭和四五年一二月ころであるが。)手術の傷口からガーゼが出たと答えていること、<証拠>によると、原告は、同年七月同市住吉区万代東四丁目二五番地大阪府立病院において、医師の問診に対し、肛門からガーゼが出たと答えていることがそれぞれ認められる。そして原告は、本件訴訟において原告の体内から出たガーゼとして検甲第一号証を提出した(右は、鑑定人山澤吉平の鑑定に使用するために、当裁判所で検証したうえ撤回された。)。

しかし、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 本件ガーゼは、一辺の長さが約2.5センチメートルの正方形のガーゼ片四枚を重ねたもので、一面が黒褐色、他面が淡黄褐色を呈しており、黒褐色の面を外側に、淡黄褐色の面を内側にして軽く巻き込むような形をしていた。本件ガーゼには、血液成分は全く付着しておらず、動物体組織、体液中の蛋白成分の付着も認められなかつたが、A血液型と同様の反応を示す物質(A血液型様物質)が付着していた。

(2) 原告の血液型は、OM型であり、唾液型は、O型の分泌型である。

(3) 一般に開腹手術において用いられるガーゼは、一辺の長さが約三〇センチメートルの正方形のガーゼであり、虫垂切除手術に本件ガーゼのように小さく切つたガーゼを使用することは極めて異例である。しかも微細な出血をふき取るために小さなガーゼ片を用いる場合にも、ピンセツトではさんで使用し、使用後は必ずピンセツトごと体外に捨てられるため、体内に置き忘れる可能性はない。また万一本件ガーゼ程度のガーゼ片が体内に置き忘れられたとしても、異物反応が長く遺るのは極めて稀有なことである。

(4) もしガーゼ片が一二年間という長期間腹腔中にあれば、これによつて起こる異物反応により、血液、体液は勿論、細胞や線維組織などがガーゼ片の中に入りこみ、容易には剥離しがたい塊を形成することになる。また腹腔内あるいは腹壁創内に遺留されたガーゼが腸管壁を穿破して腹管腔内に入ることは極めて稀である。

右のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。右事実に照らすと、<証拠判断略>。

また、前認定事実、<証拠>を総合すると、原告は、身体に変調を来たしたとして、本件手術後、別表記載の多数の医療機関において診療を受けたことが認められるけれども、右事実から直ちに被告竹中が本件手術の際原告の体内にガーゼを遺留したものと推認することはできない。

ほかに、被告竹中が本件手術時に原告の体内にガーゼを遺留したことを認定できる証拠はないので、この点に関する原告の主張は採用の限りでない。

(金田育三 田中清 中谷雄二郎)

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